物価や光熱費高騰…経済的理由による「受診控え」懸念 先延ばしで症状悪化、治療費高額化も
物価や光熱費の高騰が続き、経済的な理由による受診控えが懸念されている。医療関係者は、受診の遅れが症状の悪化や治療費の高額化にもつながるとして、警鐘を鳴らしている。
虫歯や歯周病を放置
受診控えや治療の中断で、虫歯や歯周病が悪化する人が増えている。金銭的な理由で治療を中断したり、先延ばししたり、子供を優先して親が自分の治療を後回しにしたりするケースもあるという。虫歯が進行して痛みが出たり、歯周病で歯が抜けて駆け込んでくる患者も多い。受診を先延ばしすることで、治療が大掛かりになって費用も高くなる悪循環になっている。
低所得世帯で受診控え傾向
日本では、国民全員を公的医療保険で保障する「国民皆保険制度」により、医療費の自己負担割合は1~3割に抑えられている。ただ、もともと低所得者層で受診を控える傾向があり、コロナの影響に加えて、昨今の生活費の高騰で深刻化している。国立成育医療研究センターと大阪国際がんセンターがん対策センターによる研究グループは今年2月、世帯所得が300万円未満の世帯はそれを上回る所得がある世帯に比べて、男性で約1・3倍、女性で約1・5倍、定期受診を控えていたとの分析結果を発表した。「日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS)」の20年と21年のデータから日本在住の20~79歳の1万9672人を対象に分析したもので、コロナ禍においても受診における経済格差が浮き彫りになった形だ。
「医者にかかるのを我慢」
医療費の負担増も影を落とす。人口の多い団塊の世代が後期高齢者になり始め、医療費の急増が見込まれることなどを理由に、昨年10月から75歳以上の後期高齢者のうち、年金を含めた年収が単身世帯で200万円以上、複数世帯では合計320万円以上の場合、医療費窓口負担が1割から2割に引き上げられた。
3年間は1カ月の負担増を3000円以内に抑える激変緩和措置があるが、収入の多くを年金に頼っている後期高齢者にとっては、生活費が高騰する中、不安は募るばかりのようだ。
医療費の負担増については、患者から不安の声が上がっているといい、後期高齢者は、基礎疾患を複数抱える人も多く、支払いのために貯金を取り崩さないと、医者にかかれない人もいる。光熱費の高騰や物価高が続く中、年収200万円程度の生活は楽ではない。70代の女性患者からは「これからは医者にかかるのを我慢しなければならない」といった声や、70代の男性患者からは、「生活費を捻出するために月5~6万円のアルバイト収入を得たら、2割負担の対象になってしまった」と嘆く声もあったという。緩和措置がある現状でも不安の声があり、3年後に措置が解除されると、さらに厳しくなる。
医師、歯科医でつくる全国保険医団体連合会(保団連)が昨年10月22日から今年1月23日まで、6397人を対象に行った調査で、「過去半年以内に経済的理由で受診を控えたことがある」と答えた人は19%に上った。2割負担の高齢者(435人)で同回答をした人は16・8%で、1割負担の高齢者(826人)の同回答よりも約4%多かった。
調査に協力した3割負担の現役世代からは、「定期的に通うつもりだったが、窓口負担と薬局の薬代が毎回負担になったので、症状が完全によくなる前に受診をやめてしまった」(32歳)、2割負担の対象となった高齢者からは、「受診前からどれだけ現金が必要か心配している」(82歳)、「負担が2割になったので歯科はやめた。眼科は目薬を1日3回を2回にして診察を延ばしている」(80歳)との声が寄せられたという。
生活費や物価が上がり、若い世代も高齢者も厳しい状況に置かれている人は多い。誰もが安心して医療を受けられる社会保障のあり方を国民全体で議論していくことが大切。