糖尿病のある患者に安全な歯科治療を行うには
糖尿病のコントロールが十分に行われていない方の歯周病の罹患率は、健康な人よりも高く、何らかの口腔内の常在菌に対して感染が起こっている可能性はきわめて高い。
お口の中の常在菌を含めた細菌感染によって歯肉が炎症を起こし、さらに糖尿病になると、より感染しやすい全身状態になってしまいます。
歯科領域に限らず、何らかの観血的な処置を施そうとする場合には、糖尿病コントロールが良くなってから施術することが望ましい。しかし、口腔内の処置を始める段階で糖尿病コントロールが悪いことが判明したからといって、歯科治療を一切行わないことはできない。
特に抜歯などの観血的な処置をする場合、血糖値が高い低いということだけで判断をせず、基礎疾患や起こりうる合併症を念頭に、どのような処置を選択するのかということを常に考えなければならない。
また、糖尿病コントロールが悪い場合に対して口腔内の手術を行う際は、医科歯科連携を行い、経口血糖降下薬やインシュリンの投与をこれまで通り継続してよいのか確認することが重要になる場合もある。
35~44歳の2型糖尿病患者は、糖尿病のない健康な方と比べて歯周病有病率が10%以上高いことがよく知られている。食事療法や運動療法がなかなか行えない高齢者や認知症患者の方が糖尿病コントロールが不十分なイメージがあるが、実は30代、40代の働き盛りの人たちの方が糖尿病コントロールがうまくいっていない。
糖尿病のお薬や治療をされているが、目標とするHbA1cに至っていない「医療的イナーシャ」というものがおり、それが将来的な歯周病の発症、それに伴う歯科疾患の予備軍となっている。こういった方々が高齢になり、自分で自覚症状等を訴えることができなくなった場合は、今まで以上に医科歯科連携を密にして、最良の歯科治療を行うことが肝要である。
糖尿病のコントロールが不良の患者さんに対して歯周病治療を優先させると、HbA1cは大きく低下するということがわかっている。そのため、糖尿病患者さんのHbA1cが高値もしくは目標値に達していなかったとしても、積極的に歯科治療が必要です。
いずれは経口摂取ができなくなる日が来るとしても、残された時間の中で少しでも口から食べられるように、もしくは味だけでもわかっていただけるように我々医療従事者は、これまで以上に口腔管理をして参りたいと思います。
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