歯周治療が大腸がんに関連する細菌の動向に影響
日本において、男女あわせた大腸がんの罹患数は非常に多く、悪性腫瘍の中で第2位といわれている。そのため、大腸がんの予防を行うことは喫緊の課題である。胃がんは、ピロリ菌を除菌することによって予防効果があると知られているが、大腸がんについては、まだ特定の微生物をターゲットにすることが確立されていない。
Fusobacterium nucleatum は歯周病に関連する口腔内常在菌である。近年、Fusobacterium nucleatum は大腸がんの発がんや進行と関連があると報告されており、大腸がん研究において非常に注目される細菌として知られるようになった。
また、歯周病の指標の一つである4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合は、45歳を越えると50%以上になり、多くの日本人が歯周病を抱えている。加えて、歯周病は糖尿病や動脈硬化、脳卒中などの全身疾患と強く関連しており、歯周病への関心はますます高まってきている。
横浜市立大学は,大腸がんの発がんや進行に関連するとされている Fusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム)という細菌が、歯周治療によって便中から減少することを臨床研究において明らかにした。今回の研究結果によって、歯周治療を適切に行うことで、大腸がんの発症予防や進行抑制ができる可能性が示唆された。
一方で、「なぜ歯周治療で便中の Fusobacterium nucleatum が減少したのか」といった作用機序は解明できておらず、今後の検討課題とされている。また、進行した大腸がん患者は対象としていないため、今後はこういった患者への効果についても検討していく必要があると考えられている。歯周病と全身疾患の関わりについては、以前からさまざまな研究で報告されている。今後の研究で作用機序が明らかになれば、一般の方にとって、歯周治療の重要性をより強く感じるきっかけになるかもしれない。「口腔の健康は全身の健康につながる」ということを、少しでも早く、そして少しでも多くの方が認識し、理解することを願ってやまない。